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札幌高等裁判所 昭和60年(ラ)12号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一抗告人らの抗告の趣旨及び理由は別紙一のとおりである。

二よつて、審按するに、一件記録によれば、原決定添付の第二目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、大正一五年六月二四日受付で保存登記がされ、当時は木造柾葺平家建建坪三〇坪五合であつたこと、その後昭和二八年七月一七日受付で木造亜鉛鍍金鋼板葺平家建居宅建坪三〇坪五合に表示更正登記がされ、同年頃二階八・七五坪が増築され、爾来構造上は本件建物のとおりで、現在に至つていること、本件建物は全体としてかなり老朽化していることが認められるけれども、抗告の理由一(1)ないし(3)において抗告人らが主張するような作業場等のたわみ等、基礎等の沈下、土台等の腐触、梁等の傾斜の諸事実は抗告人ら提出の資料その他本件全資料によつてもこれを認めるには充分でなく、一件記録によれば、本件増改築がなくても、建物を維持するための補修を行なえば、賃貸借期間が満了する昭和六八年九月三〇日から、更にもう一回の期間更新が可能であると認められる。

抗告人らは、被抗告人らが本件建物につき新築に近い増改築を計画したということは、本件建物の老朽化が激しく、既に朽廃の域に達しているかあるいはそれに近い状態にあることを意味している旨主張する。しかし、本件建物は全体としてかなり老朽化しているけれども、前認定のとおり通常の補修によつてなお相当長期間使用することが可能と認められるところ、被抗告人らはかなり大巾な増改築を計画しているけれども、一件記録によればこれは、本件建物のうち西側道路に面した一階部分約三四・七八平方メートルを店舗に改造して収益性を高め、右道路に面した部分の屋根の一部を無落雪構造とすることにより安全なものとし、かつ、建物の内外部を改修することにより断熱効果を始めとする居住性全般を高めるためであることが認められるので、抗告人らの右主張は理由がない。

また、抗告人らは本件増改築のように新築に近い程の過大な金額を要する場合、これを取り壊して新築する方が経済的であり有利であるときは、その建物は既に朽廃の状態にあると主張する。一件記録によれば、被抗告人らは本件建物の増改築費用として金七九〇万円を出捐することを予定していることは認められるが、右金員が新築に近い金額であるとは本件全資料によつてもこれを認めるに足りないし、前認定のとおり、本件建物は通常の修繕によりなお相当長期間使用することが可能であつて、本件建物を維持するための補修に右金員を要するわけではなく、前認定のとおり建物の収益性、安全性及び居住性を高めるための本件増改築のために前記金七九〇万円を要するのである。抗告人らの右主張は独自の見解であつて、採用し難い。

以上によれば、本件建物が今後数年のうちには居住の用に堪えられなくなり、朽廃の状態に達することを前提として、本件増改築を許可することは相当でないとの抗告人らの主張は理由がない。

三その他一件記録を精査するも、原決定にはこれを取り消し又は変更すべき違法、不当の事由は認められない。

四そうすると、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、なお、原決定添付の別紙改修計画図には、既設柱と新設柱の区別が記載されておらず、明白な誤謬があると認められるので、民事訴訟法一九四条により別紙二改修計画図<省略>のとおりに更正し、主文のとおり決定する。

(奈良次郎 松原直幹 柳田幸三)

別紙一

〔抗告の趣旨〕

一 原決定を取り消す。

二 被抗告人らの増改築許可の申立てを棄却する。

三 増改築許可の申立て及び抗告に関する費用は、被抗告人らの負担とする。

〔抗告の理由〕

一、本件建物は既に朽廃の状態にあるか、そうでないとしても、今後数年のうちに朽廃の状態に達すると思料される。すなわち、右建物は大正一五年以前に新築されたもので、被抗告人ら自身も認めているとおり、このままの状態では、もはや居住に堪えない程度に老朽化している。

(1) まず、右建物の構造上の要部について見るに、作業場(板の間)、廊下及び台所は、いずれも、一見してかなりのたわみ、ゆがみが見られる。

このことから、当然基礎は沈下し、土台及びこれに緊結する柱の根元は大部分腐触し、更には梁もおそらく傾斜しているであろうことが容易に推認される。

(2) また、外廻りの土台は地盤にめり込んでいるが、この状態から、外廻りの土台及びこれに緊結する柱の根元は、その大部分が腐触しているであろうことが推認される。

(3) 更に、建付けはいずれも悪く、傾斜したまま、一時おさえ的にその使用を余儀なくされているものが各所に見られるほか、壁、天井にも傾斜等の状態があらわれており、全体として老朽化していることが認められる。

二 鑑定委員会の昭和五九年一〇月一七日付意見書によれば、「本件増改築の実態は、建物外周の土台を、ブロックを用いて補強し、外壁はALC板を貼り、更には間取りも一部変更される等の計画であり、新築に近いものである。」旨の記載があるが、被抗告人らが、このように新築に近い増改築を計画したということは、被抗告人らも自認しているとおり、本件建物は老朽化が激しく、もはや通常の修繕程度では使用に堪えない、すなわち、既に朽廃の域に達しているか、あるいはそれに近い状態にあることを意味している。

更に本件増改築のように、新築に近い程の過大な金額(甲第三号証によれば金七九〇万円)を要する場合、これを取り壊して新築するほうが経済的であり有利であるときは、その建物は既に朽廃の状態にある(東京高裁昭和五二・八・二九判決、判例時報八六九号五〇頁参照)。

三 原審裁判所は、抗告人らの「本件建物はおそらく今後数年のうちには居住の用に堪えられなくなり、いわゆる朽廃の状態に達する。このように借地権の消滅する時期が間近に迫つているのに、申立人らの本件増改築を許可することは相当でない。」(東京地裁昭和四二・一二・二二決定、判例時報五一一号六〇頁参照)との主張を、確たる資料に基づくことなくしりぞけ、被抗告人らの本件増改築許可の申立てを相当であるとして認容する旨の決定をなしたが、該決定は失当である。

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